これからどうする?

タイトル無かったが、これからどうする?

いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学【読んだよ】

いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房)

いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房)

時間がないあなたはどうすればいいのか?という自己啓発的ビジネス書かと思ったら全然違くて行動心理学的な本であった。

トンネリング

消防士の死因として心臓発作の次に交通事故が多いとする推定もある。(中略)通報を受けて急いでいる消防士は時間の欠乏に直面する。彼らは迅速に消防車に乗って火事現場に到着しなくてはならないだけでなく、現場に到着するまでに、さまざまな準備を整える必要もある。

あまりにも多くの準備がいる消防士、その準備は完璧にこなすがその作業に集中するあまりトンネリングを起こしている(トンネリングとはトンネル視を連想させることを意図した表現)。そしてシートベルトを締め忘れてしまうらしい。

キャビネット・キャスタウェイ

キッチンにいって食品庫を見てみよう。多分ずっと前に買った品物で溢れているだろう。米国中のキッチンキャビネットは長い間使われていないスープ類、ジャム、そして缶詰でいっぱいだ。これ現象はよくあることなので食品研究者が名前をつけている。そういう品物を「キャビネット・キャスタウェイ(見捨てられたもの)」と呼ぶのだ。

スラック(余裕)があれば人は自由にキャスタウェイを作ることができる。スラックはただの無駄を生むのか、というとそうでもない。スラックは失敗する余地も与えてくれる。買うお金、置く場所がなければ失敗したものを買った時にも、それについてグチグチ悩む必要がない。悩みは認知の欠乏に繋がる。でも無駄なものを買ってもいいかというとそうでもないですよね(笑)

大きいキャップ

洗濯洗剤用のメーカーはかなり前に、人は容器のキャップが大きいほうがたくさん洗剤を使うことに気づいた。

味の素の話を彷彿とさせる。それは都市伝説らしいですが。大きいキャップは途中に分量の線ががあるが、(小さいキャップに満杯に入れるのと比べて)相対的には少なく見える。そのためにもう少し注いでしまうとか。私でもちょっとだけ多めに入れちゃいます。 この本で通して言われる認知という面でみると、キャップの満杯まで入れてたほうがトレードオフを起こさずにすむので、認知を使わずに済みますし思考として楽なんでしょう。

車輪引き上げ事故

第二次世界大戦中、アメリカ軍は度重なる航空機の車輪引き上げ事故に悩まされた。着陸のあと、パイロットがフラップではなく車輪を引っ込めてしまうのだ。想像がつくと思うが、地上で飛行機の車輪を引っ込めるのはいただけない。

そりゃそうだ。輸送機では起きてなかったこの事故。爆撃機のパイロット特有のもので、やはりストレスがすごいからか、などと思われていたが、

爆撃機の場合、車輪制御装置とフラップ制御装置は隣り合わせになっていて、ほとんど同じに見える。それに対して輸送機では全く異なる制御装置になっている。

と、ただ単に装置が間違いを起こしやすいものだったからでした。パイロットをどれだけ訓練してミスの少ない優秀なパイロットを育成しても事故は避けられない。

処理能力は高くつく

子供の健康診断のための特別手当給付を利用するためには、親は予約をしてそれを忘れないようにして、往復するための時間を見つけて、子供を無理やり連れて行かなくてはならない。これらのステップそれぞれに処理能力が必要だ。そしてこれらは行動の1つにすぎない。(中略)そのインセンティブを理解し、必要なトレードオフをするーー自分にとってやる価値があるのはどれで、どれでないのか、いつやるかを判断するーーだけでも処理能力が求められる。

この本に通じて出てくる、貧困者救済の話。貧困ゆえに処理能力が欠乏している、明日の食べ物、資金繰り、借金など、考えること、処理能力を使うことが多くありあすぎる。誰しも、スピーチの前の晩などは寝付けないものだ、と本書にある。

下記はドミニカ共和国で行ったマイクロファイナンス機関での話。顧客は雑貨屋や美容室や飲食店など、小規模事業主。

ADOPEMは、顧客が帳簿でミスをしていて、大半の人が財務のことをあまり理解していないのではないかと考えた。解決策は単純に思われる。財務知識の教育だ。そこでショアーは世界中の零細事業主が通常与えられるような、標準的な財務知識研修モジュールを入手した。教材を見た彼女のリアクションは「うわっ、なんて長ったらしいのかしら!(マサチューセッツ工科大学の財政学教授である彼女してそう思わせるほどのものなのだ)(中略)処理能力に制約のない世界では、この全てが知っておく価値のあるものだ。

ありがち。

彼女は地元でトップの事業主だけを集め、彼らが財務をどう管理しているのか調べた。彼らも複雑な会計処理に取り組んでいるわけではなかったが、あまり成功していない事業主がやっていないことをやっていた。すなわち、優れた経験則に従っていたのだ。例えば店の売上金をひとつのレジスターにいれて、そこから自分自身に固定給を払っている人が数名いた。こすれば、家庭のお金と事業のお金を混同し、家計にいくら使っていて事業でいくら儲けているか判断しにくくなるの防ぐことができる(数人の女性は、現金の束をひとつはブラの左のカップに、もうひとつは右のカップにしまっていた)

こうしためぼしい経験則を集め、それにもとづく新しい「財務教育」の授業のほうが使われる処理能力はずっと少なく、わかりやすい。

処理能力は生み出せる

貧困者がいちばん求めているのは金貸しが容易に提供できるもの、すなわち、緊急のニーズに対応するために、すぐに借りられてすぐに返せるような小額のお金である。ところが貧困者に提供される融資は、正反対の方針にもとづいて組まれることが多い。ある程度まとまった額のお金が慎重に時間をかけて提供される。そのような融資は投資には役立つかもしれない。しかし火消しに忙しい人たちには、投資するための処理能力などない。であれば、きちんとしたマイクロファイナンス機関があるにもかかわらず、人々がやはり金貸しのところに行くことを選ぶのは意外でもなんでもない。

なので平均10ドル未満の短期の小額ローン商品を試したところ、かなりの需要があったとのこと。その商品は富を築くのには役立たない。人々を起業家にすることはできない。表面的には、人生を変えられるような金額には見えない。それでも人生を変える可能性がある。

目の前の火をなんとかするために高い手数料のローンを提案するのだ。このローンはトンネルの中では魅力的であり、その高い手数料を使って貯蓄口座を作ることができる。

こういうアイデアは素晴らしいですね。

処理能力を効率的に使う

トレードオフは処理能力を使う。

忙しい人は家族や友達と過ごす時間を切望する。その時間を多忙なスケジュールに押し込むのは難しく、結局は案の定ほったらかすことになるし、たとえ押し込んでも心ここにあらずで、代わりにできたことについてあれこれ考えているので、大抵は楽しくない。

あるあるですね(笑)

欠乏のためのトレードオフを救済する策として、私たちの知る限り最も賢明な方法はユダヤ教の安息日である。安息日は昔からある概念だ。安息日には働かず、メールも、執筆も、料理も、車の運転さえしない。多くの人が長年経験していないような、静けさと安らぎと再生の日である。安息日は少なくとも二つの理由でうまくできている。ひとつは選択肢もジレンマもないことだ。休むこと以外は何もない、トレードオフのない日である。

もう1つは毎週同じ時間、金曜日が終わったときに始まることだそうだ。計画する必要がない。決めれたことに従うというほど楽なことはないですからね。

最後には欠乏も集中するために使える、というくだりがある。

締め切り直前に時間が足りなくなる人多い。なぜなら、その前に時間がふんだんにあった期間を無駄に過ごしていたからだ。私たちの学生は論文を締め切り前の2日で書くことになるのだが、たいていはその前の数週間は時間がたっぷりある。

これもあるあるですが、結局欠乏の原因となるのは、豊かなときにどう行動するか、ですね。

知らないうちに1日が過ぎていく休暇中の人が経験する、時間管理の問題の縮図である

上記を休日にメモしている私は、有効に休暇を使えているだろうか?という思考のトレードオフに陥りながら筆を置くこととする。

最後にこの本を2行で纏めると

  • 処理能力やお金など、自分の持っているものが豊かなときに、後の欠乏に備えておくべし。
  • 何かを解決するシステムを作るときには、処理能力などが無限にあると考えず、欠乏に注意を払うべし。

でしょうか。

しかしこの本も読みにくい本!なぜか読みにくい。淡々と進むからか?原書もこんな感じなのかな、と思う。しかし良本なので手元に置いて、時々読み返したい。オススメです。